NAR-0041 / 物語(Narrative) / カテゴリ:サピエンス
文字
Writing
関連する関係レコード
王の裁定と債務・所有の記録が文字により固定されたことで、事案ごとの裁きから、参照可能な条文の集合として提示される法の物語が成立した。書かれない慣習法は文字以前から存在するため、派生が主張されるのは成文法という形式の水準に限られる。新設のREL-0192(貨幣→法)により文字→貨幣→法という経路が生じるが、本エッジは規則の固定と公示という形式面の機構を主張するものであり、賠償額の通約という貨幣側の機構とは独立であるため、記法補則v1.1により維持する。
徴税台帳、命令文書、度量衡の記録により、統治者の直接の面前を越えて指令と徴収を反復する行政が可能となり、広域支配を正統化する物語=帝国の運用条件が整った。既存のREL-0004(農業革命→帝国)とは別系統の条件を示すものであり、いずれか一方を単独の原因とする主張ではない。新設のREL-0191(貨幣→帝国)により文字→貨幣→帝国という経路が生じるが、本エッジは記録と命令の遠隔反復という、計量尺度とは別の機構を主張するため、記法補則v1.1により維持する。
粘土製トークンと印影から発展した記録体系が、穀物・銀を単位とする債務と価格の記帳を可能にし、計算貨幣としての価値尺度の物語を支えた。文字と計数のいずれが先行するかについては議論があり、両者を同一過程の二側面とみなす説もあるため確度はB。
手写による複製の制約を機械的複製が置き換えたことで、文字という物語は同一テキストの大量流通という新しい形式を得た。東アジアの木版と金属活字の先行的蓄積があり、西欧の活版はその系譜のなかの一形態である。
派生 Derivation 文字 → 日本の建国神話(記紀と万世一系) 確度B
記紀は、漢字と万葉仮名による表記が定着した段階ではじめて成立した。『古事記』は変体漢文で書かれ、『日本書紀』は漢文編年体をとる。文字化は伝承を固定すると同時に取捨選択をともない、『出雲国風土記』がスサノヲや大穴持命について記紀と大きく異なる像を伝えることは、中央で再編される以前の伝承層が別に存在したことを示す傍証とされる。文字化された本文がどの言語層に属するかは内在的な証拠から検証でき、『古事記』本文にのみ2種類の「モ」の書き分けが残り『日本書紀』『万葉集』では失われている事実がその例である。 なお、成立の経緯を記す『古事記』序文(上表文)の真偽は決着していない。1979年に奈良市で太安万侶の墓誌が出土して実在と没年が確認されたことを重視し、序文の記す経緯(天武の勅、稗田阿礼の誦習、712年献上)を基本的に信頼する立場がある一方、『続日本紀』に古事記撰進の記事がなく『新撰姓氏録』にも稗田阿礼の名がないこと、序文の文体・用語法が本文と乖離することから、序文を9世紀初頭(弘仁期)の後付けとみる序文偽書説も有力である(西條勉、三浦佑之ほか)。他方、本文までを後世の創作とする本文偽書説は、上代特殊仮名遣の証拠と墓誌の出土によりほぼ支持を失っている。本エッジの確度Bはこの未決着を反映する。
対立 Opposition 古史古伝(周縁からの対抗史) → 文字 確度A
古史古伝の多くは、漢字伝来以前の日本に固有の文字(神代文字)が存在したという前提の上に立つ。これは、日本語の文字表記が漢字の受容から始まったという文字史の説明と両立しない。神代文字が近世以降の創作とされる根拠は、上代特殊仮名遣(キ・ヒ・ミ等における甲類乙類の書き分け)を反映せず平安以降の五十音図体系を前提としていること、表意文字の段階を経ずに整った表音文字が突如現れる点が文字発達史上不自然であること、阿比留文字がハングルと酷似すること、漢字伝来以前の遺跡・遺物からの出土例が皆無であることにある。上代特殊仮名遣は1917年の橋本進吉の論文によって広く知られたため、それ以前に作られた文字がこれを反映しえないことが年代判定の決定的な指標となっている。