NAR-0049 / 物語(Narrative) / カテゴリ:国家思想

ユーラシア主義

Eurasianism

確度 B有力だが異説あり
発生年代
1921年(亡命ロシア知識人の論集『東方への脱出』)/1990年代(ネオ・ユーラシア主義の再興)
中核テキスト
(なし)
中核概念
国民主権進歩
伝播経路
ロシア革命後にソフィア、プラハ、パリへ亡命した言語学者・地理学者・歴史家の論集を通じて、ロシアをヨーロッパでもアジアでもない独自の「ユーラシア」文明とみなす枠組みが提示された。運動は1930年代に分裂して衰退したが、ソ連期のグミリョフの民族生成論を媒介として1990年代以降に地政学的言説として再編され、政治的言論、教育、対外政策論の語彙として流通している。
現在の信奉者規模
測定不能(理念への帰属を測る統計がない。1920年代の亡命者の学術運動と1990年代以降のネオ・ユーラシア主義を同一の物語として括ることには学説上の留保があり確度をBとした。発生地であるロシアおよび亡命先の中東欧に対応するREG項目が本表にないため、亡命地を含む西ヨーロッパを暫定的に参照した。中核概念は文明・空間・多民族統合といった中心語彙が本表のCONにないため近似にとどまる。)
対抗物語
リベラリズム
現代への影響
単一の普遍的な近代化経路を否定し、文明を単位とする多極的な国際秩序を構想する議論の参照枠となっている。この枠組みが現実の政策決定に及ぼす影響の程度については、研究者の評価が大きく分かれている。

関連する関係レコード

派生 Derivation 保守主義ユーラシア主義 確度B

普遍的な近代化の経路を否定し、有機的に形成された共同体と固有の歴史的伝統に価値を置くロマン主義的保守の枠組みが、ロシアの位置づけをめぐる議論に取り込まれ、ユーラシアという文明単位の構想へ再編された。直接の媒介はスラヴ派とダニレフスキーの文明類型論であり、いずれも本表に独立項目がないため、本エッジは媒介項を省いた間接的な系譜の記述である(媒介項のNAR新設が今後の課題)。成立地域はNAR-0049と同じく、亡命先を含む西ヨーロッパを暫定的に参照している。

成立:1830年代〜1921年 / 根拠:ニコライ・ダニレフスキー『ロシアとヨーロッパ』; マルレーヌ・ラリュエル『Russian Eurasianism: An Ideology of Empire』; アンジェイ・ワリツキ『The Slavophile Controversy』

輸入翻訳 Import / Translation ナショナリズムユーラシア主義 確度B

言語・民族・領域を単位とするヨーロッパ由来の国民概念と民族史の叙述形式が受容されたうえで、帰属の単位を単一民族ではなく多民族を包含する「ユーラシア」文明へ置き換える形で再文脈化された。ヨーロッパ的近代の否定を掲げながらその概念装置を用いる点に、翻訳としての性格が現れている。この位置づけは研究側の分析(ラリュエル)であり、西欧思想からの断絶を主張する運動自身の自己記述とは対立する。成立地域はNAR-0049と同じく、亡命先(ソフィア、プラハ、ベルリン、パリ)を含む西ヨーロッパを暫定的に参照している。

成立:1921年〜1930年代 / 根拠:マルレーヌ・ラリュエル『Russian Eurasianism』; ニコライ・トルベツコイ『ヨーロッパと人類』; マーク・バシン他編『Between Europe and Asia』

対立 Opposition リベラリズムユーラシア主義 確度B

個人の権利と普遍的な制度形式を基準とする物語に対し、文明ごとに固有の価値と統治形式があるとして普遍性の主張そのものを退ける物語の対立。1990年代以降の再興期には、国際秩序の単極性と多極性をめぐる論争として定式化された。1920年代の学術運動と現代の政治的言説を同一の主体として扱うことには学説上の留保があるが、これはNAR-0049が同じ留保のもとで採用している括り方に従うものである。成立地域はロシアで、本表のREG項目に該当がないため空欄とする。

成立:1920年代/1990年代以降(数値は再興期の暫定値) / 根拠:マルレーヌ・ラリュエル『Russian Eurasianism』; アレクサンドル・ドゥーギン『地政学の基礎』(当事者側); チャールズ・クローヴァー『Black Wind, White Snow』

派生 Derivation 東方正教ユーラシア主義 確度B

コンスタンティノープル陥落後の「モスクワ=第三のローマ」という自己規定が、ロシアを西欧とは別個の文明的単位とみなす議論の宗教的な下地を供給した。20世紀の亡命知識人による定式化はこの下地を地政学的語彙へ翻案している。

成立:15世紀〜19世紀 / 根拠:Nicholas Riasanovsky, Russian Identities; マルレーヌ・ラリュエル『ロシアのユーラシア主義』

派生 Derivation ロシアの物語(第三のローマ/ルーシ起源)ユーラシア主義 確度B

正統信仰と国家の結合、西欧とは異なる固有の文明という自己規定が、亡命知識人によってロシアをヨーロッパでもアジアでもない独自の空間とする地政学的な理論へ組み替えられた。

成立:20世紀前半 / 根拠:ニコライ・トルベツコイ『ヨーロッパと人類』(1920); マルレーヌ・ラリュエル『Russian Eurasianism』(2008)