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企業理念

国家が建国神話を持つように、企業は理念を持つ。どちらも、集団がなぜ存在するのかを説明し、 内部の結束と外部への正当化を同時に担う物語である。 ここには世界141社が掲げてきた380の言葉を集めてある。 文面の当否は問わない。何が書かれ、誰に向けて書かれ、いつ書き換えられたかを並べる。

380 言葉を読む 社是の各条、創業者の一句、行動指針、やめた言葉。古い順に並べ、種別と地域で絞れる。 141 企業を見る 掲げている一文と、実際の事業と、存続年数・売上高・従業員数・所有の形。 7 型と地形を読む 7つの類型が地域と時代でどう分かれるか。どの語彙圏から語を借りているか。

いくつかの言葉

集めた言葉のなかから。順不同。

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自分の組織に置きかえて読む

141社を並べて見えてくるのは、良い理念の書き方ではなく、 理念を書くときに決めなければならない選択の一覧である。 以下は、収集したデータから直接読み取れる範囲で整理したものであり、 どれを選ぶべきかについては述べていない。

1

宛先を先に決める

7つの類型の違いは、文体ではなく誰に向けて書いているかの違いである。 世界(使命型)、顧客(奉仕型)、社員の振る舞い(家訓型)、共同体(共同体型)、 技術そのもの(職能型)、株主や国(契約型)。 宛先が決まれば型は決まる。逆に型から入ると、宛先が曖昧なまま語彙だけが借り物になる。

2

一文は思っているより短い

英語の理念は中央値10語、範囲は3語から28語。 日本語は中央値26字、範囲は10字から66字。 パタゴニアは8語、 ポスコは7語で書いている。 長い文が悪いのではなく、長い文は覚えられないため、 実務では要約されて別の言葉に置き換わっていく。

3

ミッション・ビジョン・バリューの3語は必須ではない

141社のうちこの3語で区別しているのは89社で、52社は使っていない。 ジョンソン・エンド・ジョンソンは1943年以来、 顧客・従業員・地域社会・株主への責任をこの順に述べる1文書に集約し、 3語の枠を導入していない。枠を採るかどうかは、それ自体が設計の選択である。 バリューを掲げる69社の項目数は中央値4で、最多は16。 項目が増えるほど1つあたりの拘束力は下がる。

4

どの語彙圏から借りるかを意識する

もっとも多い借用元は科学・工学で、進歩・革新・解決といった語が入る。 次いで自然・環境、宗教、建国神話。借用先は読み手の期待を決める。 科学の語を借りれば検証可能性を、宗教の語を借りれば信の持続を、 国家の語を借りればその国の外での読まれ方を、それぞれ引き受けることになる。 産業報国・事業報国のように国家を宛先に名指した理念は、近年いずれも書き換えられている。

5

いつ書き換えるかを最初に決めておく

改定の言及は2000年代以降に集中している。引き金は創業者の退場、上場、合併、不祥事、 事業転換、そして近年はESGとAI。 書き換える前提で書くか、書き換えない前提で書くかは別の設計である。 141社のうち7社は改定していないと明記しており、 京セラの理念は1967年の制定以来変わっていない。

6

文だけで担保するか、制度で担保するか

もっとも強い相関がここにある。協同組合3社はすべて共同体型であり、 財団・信託所有と非上場にも共同体型が集まる。 モンドラゴンは組合規約に、 ジョン・ルイス・パートナーシップは1929年の信託証書に、 ボッシュは財団と議決権の分離に、それぞれ理念を書き込んでいる。 ダノンは2020年に定款へ社会的使命を記載したが、翌年に会長兼CEOが交代した。 定款という形式は残り、人事は動いた。制度は理念を固定するが、経営を固定はしない。

141社の一文を読む → 類型・地域・所有で絞り込める。近い規模・近い業種の企業がどう書いているかを見るところから始めるとよい。